潰れ (つぶれ) とは
骨組みを持たないパラグライダーは、フライト中、気流の変化やそれに伴なう機体の姿勢により、「潰れ」と言われる翼(キャノピー)の変形が起こる。
潰れは出来るだけ起こってほしくないものであるが、翼端折り(両翼潰し)やBストールなどは、逆にこの潰れるというパラグライダーの特性を積極的に利用したものでもある。
それにも増して、基本的に振り子安定で飛んでいるパラグライダーにとって、重力速度9.8G以上の落下は、そのままアンコントロールを意味するが、その様な状況下では翼が潰れる事で非常事態を防いでいる。
つまりキャノピーは上昇気流など揚力を伴なう気流を確実に捕らえる反面、潰れる事により下降気流を下に逃がすポンプの弁の様な働きもしている。
この様に、良くも悪くも、潰れという現象を避けて通れないのがパラグライダーであり、そのメカニズムのひとつを説明する。
潰れの原因として、単純に翼の一部に負の揚力が発生した場合がある。例えば、右翼に下降気流を受けると右翼は下側(内側)に大きく潰れる。
しかし、実際の潰れは、この様な単純なものよりも、むしろ翼の迎え角の変化による要因の方が圧倒的に多い。勿論、直接の原因は下降気流など乱気流の遭遇により起こる訳であるが、迎え角と潰れの関係を認識しておく事により潰れを防止したり最小限に抑えることができる。
A図は、通常の滑空状態のパラグライダー(キャノピー)の翼断面である。
A図 通常の滑空状態にあるキャノピー |
翼を成形する為のラム圧は滑空時に取り入れられるエアーの圧力により確保されるが、滑空時に発生する澱(よど)み点がエアーインテークの中にある為に、そのラム圧は高くなっている。
また、滑空により得られる風圧分布は翼の前の部分、つまりエアーインテーク付近で発生しており、これは揚力の発生と同時にインテークを上側に開こうとする力でありキャノピーを成形する力、(潰れまいとする力)である。
この2つの力の作用により通常の滑空状態では潰れは起こりにくくなっている。
B図は、迎え角が大きくなった状態。
B図 迎え角が大きくなった状態のキャノピー |
実際の飛行では、サーマルに遭遇した時などのピッチアップの瞬間である。
澱み点が前縁の下の方にずれ、ラム圧は低くなる。
しかし同時に風圧分布も前にずれる。
キャノピーを成形する力は、ラム圧よりもむしろこの風圧分布による影響の方が大きい。
従って、この状態では、潰れは起こりにくく、実際にはA図の状態よりも潰れに強い。
C図は、迎え角が小さくなった状態。
C図 迎え角が小さくなった状態のキャノピー |
サーマルから抜ける時や下降気流に遭遇した時など、ピッチダウンの瞬間である。
澱み点は前縁の上側にずれ、エアーインテークからはずれる為に、ラム圧が低くなる。
そして、風圧中心が翼の後に移動する為に、エアーインテークを開こうとする力が小さくなる。
こうなるとキャノピーは潰れ易くなり多少の気流の変化でも潰れは発生する。
過大なピッチダウンでは、前縁付近の風圧分布がマイナスとなり、前縁が内側に巻き込まれるように潰れが発生する。
アクセルを必要以上に踏込んだ時やローターにたたかれた場合におこる潰れもこれにあたる。
以上から、潰れを起こさない為にはキャノピーをC図の状態にしないことで、簡単に言えばキャノピーを常に頭上に止めておくことである。
ブレークコードを少し引いた飛行はB図の状態を作れ、A図に比べ多少荒れ気味のコンディションでは有利になる。
しかし、A図に比べスピードが遅いということは確実に失速速度に近づいていることも認識する必要がある。
スピードを保った機体が一時的に大きくB図のように迎え角を付けても失速しない。また迎え角が大きくなったキャノピーは揚力係数が変化して一時的に揚力が増し、それが潰れに対しても有利に働く。従って、通常の飛行ではある程度の余裕を持ったスピードであるフルグライドを心がけ、そのスピードエネルギーを利用して潰れの対応をすることが得策と思われる。